2006年9月8日 茨城新聞

<3> 利用者の思い 交通弱者の貴重な足
2006/09/08(金) 本紙朝刊 総合1面 A版 1頁
 行方市在住の主婦、高野トヨさんは三日に一度、鹿島鉄道を利用して病院に通っている。車の運転ができないため、家人がいない日中は鉄道しか交通手段がないからだ。「せっかく(鉄道が)あるのだから残してほしい」と、鉄道の存続を訴える。
 鹿島鉄道は行方市や鉾田市など、県内でも高齢者の多い地域を走っている。今後、沿線住民の高齢化がさらに進む可能性も高い。かしてつブルーバンドプロジェクト実行委員長、菅原太郎さん(29)は、「これから高齢になり、車を運転できなくなる人も増えるだろう。彼らの貴重な足を簡単に無くしていいのか」と、同鉄道の廃止が交通弱者の切り捨てにもつながると指摘する。

 小美玉市小川の県立小川高では、全校生徒の約三割が同鉄道を利用して通学している。鶴町文男校長は「鹿島鉄道が廃止されれば、本校の存続も危うくなる」と強い危機感を示し、沿線の保護者に鉄道利用をお願いする文書を配布するなど、利用促進に力を注いでいる。同校の生徒も「かしてつ応援団」のメンバーとして支援運動を展開。駅舎の清掃や署名活動などを通じ、同鉄道の存続を求めている。

 一方、鹿島鉄道の存続を求める理由として、沿線の景観の美しさを挙げる人も多い。
 「山あり、湖あり、田んぼありで風景が変化に富んでいる。一日として同じ風景がない」-。つくば市上郷、会社員、近藤良平さん(53)は三年前から毎朝、鹿島鉄道の写真をデジタルカメラに収め、自身のホームページ「鉄の匂い」などで公開している。これまでに撮影した同鉄道の写真は九万枚にも上る。近藤さんは「美しい景色の中を日本一古い現役の気動車が走っているということを多くの人に知ってもらいたい」と話す。
 写真家の森秀暢さん(58)も同鉄道の魅力を「静かで、ゆったりとした時間の流れ」と表現する。森さんは四年前、神奈川県茅ケ崎市から鹿嶋市に移住した。「鹿島鉄道には都会にはないものがたくさんある」と語り、「地元の人々には当たり前の風景も、都会に疲れ茨城に移ってきた人たちには新鮮で魅力的に映るはず。県外から移住してきた人々にもっとアピールすべき」と提案している。

 同鉄道は一九二九年の全線開通以来、利用者が減っているとはいえ、地域住民の生活を支えてきた。鉾田市鉾田、製パン業、大堀勝弘さん(68)は、今も週末のたびに鉄道を利用。駅員や乗客、売店の従業員らとの会話が一番の楽しみだという。「見知らぬ同士が会話をしたり、おばあさんがよその子供にお菓子をあげたり…。鹿島鉄道と土地の人々がつくり上げた温かい交流、文化がなくなってしまうのは寂しい」と話す。
 こうした利用者の思いをどう受け止め判断していくのか、残された時間はあまりにも少ない。

【写真説明】
豊かな自然の中を走る鹿島鉄道=行方市