2006年9月10日 茨城新聞
<5> 公共交通確保 依然見えない将来像 |
2006/09/10(日) 本紙朝刊 総合1面 A版 1頁 |
「サッカーなら、2対0で負けていて、ロスタイムに入っているような状況」。 鹿島鉄道存続に向け基金への寄付を受け付けている「鹿島鉄道」存続再生ネットワークの長谷川功代表は先月二十二日、県庁で記者会見し、同鉄道の存続に関して厳しい現状認識を示した。 存続問題で橋本昌知事は、沿線の中学・高校生で組織する「かしてつ応援団」(鬼沢友里団長)などの活動を評価しつつも、「それが利用者増につながっていない」と指摘し続けている。 長谷川代表も「大人の沿線住民の存続運動が残念ながらなされてこなかった」と、沿線挙げての取り組みが遅れたことを認める。 「仮にデュアル・モード・ビークル(DMV)を導入すれば、(二〇〇九年度開港を目指す)百里飛行場や、鹿島臨海鉄道新鉾田駅へのアクセスとしての活用が期待できる」。麦島健志県企画部長は今年三月十七日の県議会予算決算特別委員会で、線路と道路の両方を走行できるDMVの導入の可能性を調査・検討することを明らかにした。 DMVは駅から商業施設や病院などを直接結ぶことができ、小回りが利くためお年寄りらにも使いやすい。鉄道車両に比べ車両購入費や燃料費、維持費が安く、国土交通省とJR北海道は来年四月から営業運転を始める方針を決めている。 一方で、一両当たりの定員が十七人程度と少なく、三両までしか連結できないといった課題もある。「現状では、鹿島鉄道活性化への切り札、救世主のようなものではない」(県企画課交通対策室)という。 ひたちなか市の本間源基市長は今月一日、茨城交通(水戸市)から、同市の勝田駅と阿字ケ浦駅を結ぶ湊鉄道線(十四・三`)の廃止を打診されていたことを明らかにした。同社の竹内順一社長は茨城新聞社の取材に対し、「廃止を決めたわけではないが、弊社は経営再建中であり、赤字を垂れ流しながら続けることは難しい」と、苦しい胸の内を明かす。 日本民営鉄道協会のまとめでは、昨年四月のJR西日本の福知山線脱線事故など相次ぐ鉄道事故を受け、JR三社と私鉄大手十六社の安全対策に充てる本年度投資額が、前年度より40・1%多い五千四百七十九億円と過去最高に達する。 体力のない中小私鉄も、安全対策や車両の更新に費用がかさむのは同じ。鹿島鉄道を存続させる場合の〇七年度以降の公的支援額が約十一億円に跳ね上がったのは、そうした事情もある。 鹿島鉄道への公的支援継続について、県幹部の一人は「少なくとも、利用者が増えるか最低でも横ばいという実績がないと、県民全体の理解は得られないのではないか」と話す。 遅ればせながら県は本年度から、公共交通の活性化と利便性向上を図るための施策を盛り込む公共交通活性化指針の策定に乗り出した。しかしこれは、ローカル鉄道を将来の県土づくりの中にどう位置付けるかという視点が県政に欠けていたことの裏返しでもあり、そのツケが今、回ってきているようにも見える。 本県のローカル鉄道の将来像は極めて不透明だ。(おわり) |