2007年2月26日 茨城新聞
湊線問題 茨城交通 市試算に“沈黙” 存続の条件不透明 |
2007/02/26(月) 本紙朝刊 第1社会 A版 23頁 |
ひたちなか市内を走る茨城交通湊線の存廃問題は、茨城交通が三月中に国に対して同線の廃止届を提出するかどうかをめぐり、大詰めの段階を迎えつつある。市が設置した「湊鉄道対策協議会」の会長を務める本間源基市長は今月に入り、茨城交通や金融機関を回り、存続への努力と協力を強く求める要望を続けている。だが、現時点で存続への道筋を描けていないのが実情だ。 「最低限これをクリアしないと存続できないという点を明らかにしてほしい」 今月六日。水戸市袴塚三丁目の茨城交通本社を訪れた本間市長は、同社の竹内順一社長らを前に、存続条件を明示するよう求めた。 出席者によると、茨城交通側はこれに明確に答えず、協議を続ける考えを示すにとどまった。 市には、どういった支援をすれば存続を図れるかが見えないことへのいら立ちが募る。 昨年十二月二十二日に開かれた第五回対策協。廃止の危機に陥った長野県内のローカル線が行政への積極的な支援要請を行い、分社化などによって存続した事例が事務局の市企画調整課から報告された。 これとの対比で、茨城交通からの要請の有無を問われた同課は言い切った。「それはない」 茨城交通は、同対策協に出した二〇〇七年度から五年間の収支予測の中で、存続は困難との見方を打ち出している。 老朽化した車両交換やのり面修復など安全対策の施設整備費として計約六億円がかかるとし、さらに利用者数が年3・5%ずつ毎年減少すると見越して計約五億円の営業損失が発生するとの見通しだ。 これに対し、市は国、県、市の補助を前提として、施設整備費は約五百四十万円に圧縮可能とし、営業損失についても約九千万円まで削減できると試算。加えて利用者数が〇五年度を維持できれば営業損失はさらに約六千万円減る。 まだまだ存続は十分可能というのが市の見方だが、試算についての同社からの反応はほとんどないのが現状だ。 「茨城交通は車両交換を新型にするなど、ことさらに厳しさを強調しているように思える」。市関係者はため息を漏らす。 湊線の存廃問題が浮上した背景には、茨城交通本体の経営難がある。 巨額の有利子負債を抱えた同社にとって、不採算部門を切り捨て、身軽になって再建を図るのが至上命題と言える。 「企業の存続を最優先に考えている」(竹内雄次常務)ことからすれば、「使命感」を求められても、容易に動きは取れない。 債権放棄など金融支援を行っている金融機関と整理回収機構が了承している茨城交通の再建計画には、不採算部門からの撤退が盛り込まれているとされる。 存続に取り組む関係者は一致して、これが湊線存続の最大の足かせになっていると見なす。 最終的に焦点になると見られるのは、年約四千万円、五年間で計約二億円の収入となる鉄道敷地敷設の光ファイバーケーブル賃貸料の扱いだ。 再建を最優先とする茨城交通は、これを鉄道事業から切り離し借金返済の原資に充てるとの見解を示す。一方、市は従来通り鉄道事業収入とすることで経営の柱に据えるのが存続に欠かせない条件ととらえている。 利用促進はもちろんだが、この賃貸料収入の扱いが存廃を左右する鍵を握る。そのためには、金融機関の協力と理解が不可欠だ。ただ、整理回収機構や金融機関に対して本間市長が行ってきたこれまでの要望行動の中で、存続に前向きととらえられる返答はなかったという。 廃止届提出方針を「決めたわけではない」(海老根磐夫総務部長)とする茨城交通がどういう判断を示すか、一つの区切りと見られる三月末に向けて、残された時間は少ない。 |