2007年03月06日 朝日新聞
ひたちなか市の中心市街地・勝田と港町・那珂湊などを結ぶ茨城交通湊線(勝田―阿字ケ浦、14・3キロ)が存廃の岐路に立っている。湊線を運行する茨城交通が昨年3月、赤字を理由に「08年3月までに廃止せざるを得ない」と市に伝えてきたためだ。存続を望む市に対し、同交通からはいまのところ具体的な意思表示はなく、「一方的なラブコール」(本間源基市長)状態が続いている。(田内康介) 「湊線がなくなってしまったら、病院に行くのにも困ってしまう」 湊線の1日の乗客は約2千人。1965年度の年間350万人をピークに年々減り続け、05年度は72万人にまで減少。かつて阿字ケ浦海水浴場に向かう海水浴客らにとって、湊線は欠かせない交通手段だったが、自家用車の普及で、乗客は減り続ける一方だ=グラフ。 湊線を運行する茨城交通は、多額の有利子負債を抱え、財政支援を受ける金融機関との間で05年度から5カ年の再生計画を立てている。計画は不採算事業からの撤退を基本としており、湊線は厳しい状況に追い込まれている。 同交通が、「このままの状況が続けば、湊線は08年3月にも廃止せざるをえない」と市に伝えたのは昨年3月。鉄道事業法は「廃止の日の1年前までに、廃止することを国土交通大臣に届け出なければならない」としており、市は「今月にも廃止届が出されるかもしれない」と心配する。 市は本間市長を会長とする「湊鉄道対策協議会」を昨年6月に設置。茨城交通は、協議会で市に対し、安全性の向上のためには車両更新などの整備費用が必要とし、07年度から5年間で計5億円の営業赤字を見込んだ収支予測を提出した。 協議会には「出来る限りの支援はしたい」とする県も入り、存続のための財政支援の方法や利用促進などの検討を続けている。 朝日新聞の取材に同交通は、「今後も存続に向け協議を重ねていくが、交渉の進展状況によっては廃止届も選択肢の一つと考えている」と文書で回答。さらに「安全対策の費用が確保できない収益状況では、公共交通事業者として最大の責任を放棄するに等しい」ともしている。 本間市長らは2月6日に茨城交通本社(水戸市)に出向き、「存続には何が条件かはっきりしてほしい」と要請した。しかし、同交通からは「努力する」といった内容以外に具体的な回答はまだないという。 市が昨秋、高校生に行ったアンケートによると、444人が通学で湊線を利用しており、利用している高校生の半数が「他に交通手段がない」と答えた。一方で、市民全体を対象にしたアンケートでは、回答者320人のうち181人が「湊線には乗らない」と答えた。 本間市長は存続に向けた支援について「湊線をどう利活用できるか見極めないといけない」と述べたうえで、「市民の理解を得るために説明をしていきたい」としている。
《茨城交通湊線》 1913(大正2)年、湊鉄道(勝田―那珂湊)として開業。当時は水産物などの物資輸送を目的に整備されたが、84年に貨物輸送を全面廃止した。現在の運行本数は平日1日当たり28往復。全線単線で、駅数は9駅。 |