2006年9月15日 毎日新聞
◆撤退論議の背景に99年の「鉄道事業法」改正
◇事業者の意思で廃止が可能に−−親会社もTX対応に追われる
来年3月末での事業撤退を表明した鹿島鉄道(本社・土浦市、小野里忠士社長)。石岡−鉾田両市間を結び、鹿鉄(かしてつ)の愛称で住民に親しまれてきたが、「存続か、廃止か」を決断するタイムリミットは今月中とされる。残された時間は少ない。鹿鉄はどうなるのか。存続を望む沿線住民の動き、自治体、県の取り組みを取り上げ、揺れる「住民の足」の今後を考える。【清野崇宏】
「沿線住民の利用がなかった。(見通しが)甘かったのではないかという指摘は、甘んじて受ける」。5月、石岡市内であった鹿鉄対策協議会。公的支援を続ける沿線4市(石岡、鉾田、小美玉、行方)の市長らを前に、小野里社長は、02年からの経営改善5カ年計画以後も経営状況が好転していないことを説明し、「廃線やむなし」の姿勢を示した。
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鹿鉄はピークの79年、年間約196万人を運んだが、マイカーの普及と少子化の進行で旅客数は減少し、昨年は約78万人まで落ち込んだ。営業区間内1キロ当たりの1日平均乗車数を表す輸送密度は、昨年度が556人。昨年3月で廃止した日立電鉄線(日立市、常陸太田市)でも、最後の04年度は1303人だった。
01年には、小美玉市の航空自衛隊百里基地への航空燃料の貨物輸送が打ち切られ、収入の3分の1が消えた。阿久津弘基専務は「燃料輸送がなければ、もっと前に廃止になってもおかしくなかった。それほど乗客が減った」とため息をつく。
各地の民間鉄道が、経営難から撤退するケースが多くなっている。背景にあるのは、99年の鉄道事業法改正とされる。
鉄道事業はこれまで、国が地域の交通事情に配慮し、事業者に占有権を与えてきたが、鉄道以外の交通手段の発達で需給調整の意義が薄れた。鉄道事業への参入が免許制から許可制へと規制緩和されるのとセットで、事業廃止も許可制から事前届け出制へと緩和された。1年前に廃止届を提出すれば、事業者の意思で廃止に踏み切ることが可能になった。
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1日に約15万人(初年度平均)が利用するつくばエクスプレス(TX)の開業や、県が09年度の開港を目指す百里飛行場(小美玉市)計画。地域の交通事情は変わった。鹿鉄への支援打ち切りを決めた親会社の関東鉄道(本社・土浦市)は、TX開業以降、競合区間の高速バス路線で乗客の7割以上を失った。大塚聡・企画課長は「TXでできる人の流れを利用した新しい役割を模索している」と話し、鹿鉄の支援どころか、厳しい現状を乗り切ろうと必死だ。
県は7月、行政、交通事業者、県民、有識者らでつくる「県公共交通活性化指針策定委員会」を作った。県は「国、県、市の役割分担を明確にして意識改革を図り、乗りやすい交通体系を作ることで、一度離れた利用者を呼び戻したい」と委員会の狙いを話す。
鹿鉄の問題は、地域の交通が新時代に入ったことを示す象徴的な出来事ともいえる。
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■ことば
◇鹿島鉄道
1924(大正13)年、前身の鹿島参宮鉄道(石岡−常陸小川、7・1キロ)として開業。29年、現在の石岡−鉾田駅間、27・2キロが全線開通した。合併で関東鉄道鉾田線となった後の79年、赤字路線の鉾田線が分離して現在の名称に。経営悪化を理由に今年3月30日、鉄道事業の廃止届を国土交通省に提出、来年3月での撤退を表明している。県と沿線4市でつくる鹿島鉄道対策協議会や住民団体が、存続へ向けた活動を重ねている。
毎日新聞 2006年9月15日