2007年1月10日 朝日新聞
2007年01月10日
廃線決定から1週間たった昨年の大みそか、鹿島鉄道(石岡市―鉾田市)には大勢の鉄道ファンが詰めかけていた。広島県の男性会社員(30)は「廃線と聞いて夜行で駆けつけました。昭和の懐かしさを感じる、いい鉄道ですね。車両はぜひ保存して欲しい」。 82年の歴史を持つ鹿島鉄道が今年度限りで廃線になることが決まり、4月からは関鉄グリーンバス(石岡市)が代替バスを運行する予定。今月中にも国交省へ認可申請をする。 県内では2年前にも日立と常陸太田を結ぶ日立電鉄が廃線になった。今は代替バスが走っているが、鉄道利用者のうちバスへ移行したのは4割程度にとどまっているという。 「時間通りに運行して欲しい。遅れて授業に間に合わないときもある」「バス停が危険な場所にあるので検討して欲しい」「いすの多い車種にして欲しい」 常陸太田市の太田二高が05年5月に行ったアンケートでは、代替バスに対する不満が噴出した。廃線を機に日立市や東海村方面から入学する生徒も減っている。3年生は31人いるが、2年生は22人、1年生は16人となった。 鹿島鉄道、日立電鉄とも沿線の高校や住民たちは存続を求めてきた。だが、乗客の減少という「時代の流れ」に逆らうことはできなかった。 県によると、県内の鉄道の輸送人員は平均でJRが年間約230万人、私鉄が約70万人ずつ減っている。県内の私鉄5社(鹿島鉄道、関東鉄道、真岡鉄道、茨城交通、鹿島臨海鉄道)の経常損益の合計は05年度、黒字から約8千万円の赤字へ転落。茨城交通湊鉄道(ひたちなか市)も廃線の危機にある。 経営難は路線バスも同様だ。県内の廃止路線は高速バスを除き、5年間で計144系統(601・9キロ)に上る。関東鉄道はつくばエクスプレス(TX)の開業で、「ドル箱」のつくば―東京間の高速バス事業が打撃を受け、子会社の鹿島鉄道への支援打ち切りを決定。皮肉にもこれが廃線の一因になった。 一方、TXは05年度の輸送人員が約3400万人と好調で、県内の公共交通では「一人勝ち」状態になりつつある。 県は先月公表した「県公共交通活性化指針」の骨子案で、行政の財政支援だけでは公共交通の維持は難しいとの見方を示した。県交通対策室は「これからは県民や地域が利用促進に取り組んだり、経済的な負担を受け入れたりして、行政、事業者と一緒に公共交通を存続させていかなければならない」と話す。 そうしたなか、新しい動きも出ている。路線バスや鉄道のない「交通空白地」を走るコミュニティーバスの導入だ。民間などに委託して運賃を安く設定し、高齢者を中心に利用されている。昨年11月現在、県内15市町で運行されている。 鹿島鉄道がなくなる石岡市では昨年10月から、第三セクターが旧石岡地区で「乗り合いタクシー」を走らせている。利用登録をすれば、中学生以上は1回300円で自宅まで送迎してくれる。登録者は約2700人と予想を上回っているという。 同地区ではコミュニティーバスも走らせてきたが、同市ではタクシーの方が補助金を年間1千万円ほど節減できるとみている。バス停から離れた人でも使いやすい利便性も重視、4月からは旧八郷地区を含めてタクシーに一本化する。 週2回は通院に利用するという同市の主婦田村信子さん(69)は「運転もできますが、体調が悪いときは家の前まで来てくれるから本当に助かります」。 石岡市の担当者は「他の沿線市もバスやタクシーを採り入れて連携すれば、鹿島鉄道を補う交通網が築けるのでは」と話している。 |