「鹿島鉄道に乗りたい人がどれだけいるのか」。そこが存続へのキーポイントだと鉾田市の鬼沢保平市長は指摘する。自らも鹿鉄(かし・てつ)で鉾田南中学校に通学しただけに、思い入れは人一倍ある。「2両連結の車両は中高校生で満員だったなあ」と昔を懐かしむ。
鉾田駅から二つ目の巴川駅の敷地と鬼沢家の敷地は接していた。駅まで1分。鹿鉄に飛び乗ると、じきに鉾田駅だった。「あのころは、自家用車での通学の送り迎えはなかった。徒歩以外の生徒は、鹿鉄やバスで通っていた。鉾田駅前のバスターミナルもにぎやかだった」と話す。だが、今の鹿鉄は、駅も車内もガランとしたままだ。
「基本的には残したい。しかし、現状を考えると難しい面が多い」。ノスタルジーに重い現実がのしかかる。通学定期利用者が、この1年で1割も減ったことにもショックを受けた。
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鹿鉄には「運賃が高い」という評判がついて回る。小川町に住む男子高校生(16)は通学に鹿鉄を利用しているが、「友だちはバイク通学が多い。危ないけどガソリン代の方が安いから」。
沿線自治体による鹿鉄支援が決まった02年、同社は「運賃引き下げ」による増客努力を掲げた。しかし、いまだに運賃値下げには踏み切っていない。阿久津弘基・鹿鉄専務は「安くしても乗客が増える根拠がない。受け皿がなければ怖くてできない」と説明する。
鹿鉄対策協議会(会長=横田凱夫・石岡市長)は、4月の通学定期を実験的に2割引きにすることを打ち出した。対策協の予算120万円で、割引分を補填(ほ・てん)する「受け皿」をつくった。運賃が高いことを理由に敬遠している生徒を引き戻すのが狙いだ。
「これは賭けです」と、石岡市の荻沼雅光企画部参事は言う。利用者が増えれば、運賃の高さが乗客減少の原因と言える。しかし、その逆なら、潜在的にも需要がないことになる。
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「この時期に廃止届を提出とは……。合併協でも鹿鉄支援策は話し合っていない」と小松修也元小川・美野里・玉里合併協事務局長。現在は小美玉市企画調整課長として鹿鉄問題を扱う。同市は3月27日に合併したばかり。市長が決まらなければ、今後の方針も決まらない。
旧玉造町内に五つの駅を持つ行方市の坂本俊彦市長は、昨年の合併後の市長選で「鹿鉄存続」を公約の一つに掲げた。だが、合併後初となった06年度の予算編成では新市の財政事情の厳しさを痛感した。「(存続は)財政に余裕があればの話だけど」と苦笑するのみだ。
沿線自治体による鹿鉄支援の根拠は、02年6月末に全戸対象に行ったアンケートだ。63%が存続を望み、55%が支援を支持した。
しかし、その後の合併で沿線自治体は5市町村から4市に再編された。すべての市で、鹿鉄を生活圏に含まない旧町村を抱える。ある市職員は言う。
「今、アンケートをすれば存続希望の割合は減るだろう。そうなれば、自治体が税金で支援する根拠も薄れる。今の市で、鹿鉄に乗りたい人がどれだけいるのか」
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